2008年8月18日月曜日

お盆


 母のお墓は小さな丘の上にあります。
太陽をいっぱい浴びていつも輝いています。
「太陽がいっぱい降り注ぐ場所がいいな」と、いう私に「夏は暑いぞ」と主人。


田舎のあぜ道は、この季節大きく茂った草たちで覆われます。
見下ろした棚田には凛とした緑の稲穂が、高さを競っています。

朝、木の下で鳴いていた小さなせみは、白樺色のニィーニィー蝉。
昼うるさく鳴いていたあぶらぜみが、かなかなと鳴くひぐらし蝉に変わる頃
村はもう赤とんぼの季節です。

田んぼに切り株が残り,籾殻を焼く煙があちこちから上がります。
遠くで太鼓や鐘の祭囃子が聞こえます。

やがて、かさかさと舞う枯葉の音を聞きながら夜長の秋は深まっていくのです。
早く目覚めたその朝は一面の銀世界、太陽の光を浴びてきらきらと輝きます。

張り詰めた空気が緩む頃、雪の下から顔を出しているのは春を待ちわびている蕗の薹です。

時を経ても変わる事のない自然の営み。
村は自然の営みの中に、人々の暮らしがありました。

なにもなかったお盆はタバコの葉の収穫時期、やにのついた母の黒い手が額の汗をぬぐっていました。


「環境」という名を借りて、私たちは次に何を作ろうとしているのでしょうか。






●・・・ 今月の室長の言葉 ・・・●
腰に手を当て背筋を伸ばし頭を首の上にまっすぐ置いてみました。足は大地の上にしっかり立ちました。目を閉じると草や木のささやきが聞こえるのです。



2008年8月11日月曜日

魂を持った道具達


工場に終了のベルが鳴り響きます。
アイロンの蒸気を抜く人、ミシンの汚れをふき取る人、
一斉に今まで使っていたミシンやアイロンの掃除が始まります。
道具の一つ一つにまるで魂があるかのように・・・。


ある日、工場に立った私の目に映ったのはライン長のkさんの姿でした。

ミシンを包み込むような、ミシンと会話しているようなその姿は、縫う事が大好きと
言っているようです。柔らかい丸みを帯びた手は、流れるようにやさしく生地を包み
込みます。
単調に動くアイロンは、正確に動作を刻んでゆきます。

よく見るとライン長だけではありません。
一人、一人、流れるように動くその手は最後に次の人が仕事がしやすいように
縫いかけの製品は整然と置かれているのです。


一つ一つの作業の中に包み込まれていく心を、服達は知っているのです。


床に糸くずひとつ落ちていない工場は、縫う人の心も磨いているという事を・・・・。




●・・・ 今月の室長の言葉 ・・・●
腰に手を当て背筋を伸ばし頭を首の上にまっすぐ置いてみました。足は大地の上にしっかり立ちました。自然の風を感じた時、もやもやした心が抜けていくのを感じました。











2008年8月3日日曜日

お父さんとゆかた


 夏がくると思い出します。

中学の家庭科に浴衣を縫う授業がありました。
その年、母は入院中で私は父にゆかたの生地をたのみました。

縁側から「ほーら」と父の声、その声に振り向いた私に太陽の光をいっぱいあびた
ひまわりの花が飛び込んできました。
黄色の花びらが白地をバックに笑っています。
緑色の葉っぱが優しい風を送っています。

私は一瞬思いました。
「えっこれ、本当にお父さんがえらんだの。」


野菜を作り写真や水彩画に熱中する父は86歳、少し耳が遠くなってきました。


父の買って来てくれたゆかたの生地はところどころ薄汚れながら、不慣れた
手つきで縫われていきました。
最後にお尻の部分に当て布をつけて出来上がった浴衣は、その年
夏の夜の晴れ着になりました。


着物の生地って不思議です。
はさみで切っても、捨てるところがありません。
少し残った生地は、四角に縫って紐を通して巾着袋になりました。

染めなおしたり、仕立てかえたり、着物は何度もよみがえるのです。




そして、貧しさから逃げ出したかった私は、黙々と働いていた両親から豊かな心を
学んでいる事を知らなかったのです。




●・・・ 今月の室長の言葉 ・・・●
腰に手を当て背筋を伸ばし頭を首の上にまっすぐ置いてみました。そしてお尻に力を入れました。なんだか、口元がきゅっと引き締まってみえました。








2008年7月28日月曜日

小さな演奏会


 室内管弦楽の演奏会が開かれました。
20人ほどの小さな演奏会でした。

プログラムに書かれていたのは、ヴォルフガング・アマデウス・モーツアルトの
「デイヴェルテイメント 17番 ニ長調 KV.334より」

拍手がなり終わるとヴァイオリンが走るように音色を奏でだしました。
ホルンやヴィオラがヴァイオリンの後をいそがしく追いかけていきます。
目を閉じるとさまざまな光景が、現れては消えていきました。

白い大理石の大広間で着飾った淑男淑女が、流れるように踊っています。
その輪はくるくる回りながら、右に左に大きく揺れています。
おおきな広間は、流れるようにまわる人達でいっぱいです。

やがて一面エメラルド色の光がたちこめ、きらきら輝き始めました。
くるくる回りながら光り輝く石はわれ、さらに細かく細かくなった粒子はいっそう光を放ちながら、夜空いっぱいになるのです。

緑一面の草原を一人の乙女が踊りながら山をぬけ空を走り、やがて宇宙へと広がっていきます。

ヴァイオリンはいつの間にかヴィオラやチェロ、ホルン、コントラバスと一体となっていました。

大拍手の中、音楽とは無縁の私は初めての感動に胸が熱くなりました。


一つ一つ音色の違った楽器たちがそれぞれの個性を奏でながら、それでいて一体となっていく様子はよく企業にたとえられます。

一人ひとり、顔も違えば個性も違う私たち。

どうしたら次の人が仕事がしやすくなるかしら、
どのようにしたらお客様に喜んでいただけるのかしら、と皆いつも考えます。

それでも、一人ひとり、個性があるように答えも、考え方も違っています。
でも、だから、新しいものが生まれるのです。

みんな、力を振り絞り自分の意見を納得いくまで伝えようとするのです。
だから、今日に甘んじてはいないのです。


●・・・ 今月の室長の言葉 ・・・●
腰に手を当て背筋を伸ばし頭を首の上にまっすぐ置いてみました。なんだか、いつもより自分が大きくなった気がしました。











2008年7月21日月曜日

思いで


 母との「思いで」の中には洋服に関係している事がたくさんあります。

ウエストをゴムで絞ったギャザースカートは、ピンク地に紫色のカトレアの花が高貴な印象で私のお気に入りでした。

そのスカートは実は近所のお姉さんのお下がりでした。
いただいた時に何かに引っ掛けて破かれたのでしょうか、まだそんなに着古してはないのに裾から斜めに少し避けて破れていました。

母はそんな破れた所に同じような色の生地を当てて上手に修繕してくれていました。
そのつくろった後が一枚の花びらのように見えて、裾がひらひらゆれるたびに花びらも一緒に舞ってくれるのです。
なぜか私はそれを友達に見せびらかしたくて、好んでそのスカートをはいていたように思います。
ひょっとしたら、母から見れば何もつくろった物を着なくても、と思っていたかもしれません。

小さな農家で、朝から晩まで働きづめの母親はいつも厳しい顔で優しい言葉をかけてくれた事が有りませんでした。

今、振り返ってみると、私は母の繕ってくれたそのスカートに、母の優しさを感じていたのかもしれません。

一人、一人の思いや心は、知らない間に、事に物に伝わっていきます。


「次工程はお客様」

そんな思いを忘れないで一針、一針に思いをつなげて行きたいと思います。

●・・・ 今月の室長の言葉 ・・・●
どうしても好きになれない。なんだかいやだなーて思う人がいたら試してください。 胸に手を当て○○さんだーい好きと叫ぶのです。 その時、その人の笑顔が浮んだらもう大丈夫。




2008年7月14日月曜日

お裁縫


 裁縫とは生地をカットし縫い合わすと書きます。

幼いころの思い出に、母の縫ってくれたスカートがあります。
特別なスカートのパターンがあった訳でもありません。
当時のデザインブックを参考に、母なりに考えたデザインだったのでしょうか。
つりベルトのついたギャザースカートは緑色のチェック柄だったのを、今でもはっきり覚えています。
そんなお裁縫をしている母の姿は、どこか誇らしげでした。

生地を選び、裁ち合わせ、縫っていく中で母の脳裏に浮んだのは、娘の喜ぶ笑顔だったのでしょう。
最後に穴を開けてボタンをつければ終わるという日、母は肝臓で入院してしまいました。

私はお母さんが退院する日が待ちきれず、妹と二人ベルトをリボン代わりにしてスカートをはいていたのを思い出します。

現在のアパレルメーカーは、効率を考え能率よく仕事が進むように、それぞれの工程が分業化されてきました。

「こんな人に着ていただきたい」「こんな人に喜んでもらいたい」デザイナーさんの思いが最終工程まで伝わっているでしょうか。
母の思いにも似たその心をみんなで共有しているでしょうか。

工場では、生地を裁断する人、芯を貼る人、ポケットを作る人、袖を作る人などいろいろな工程に分かれて一着、一着の製品が縫いあがっていきます。

「次工程はお客さま」

工場の壁に貼ってあるこの言葉は、リミットの物つくりの根幹なのです。
張り紙は年数を経て、少し茶色に変色しています。
でも、どんなに時代が変わっても、人が変わっても守らなければならない心なのです。


●・・・ 今月の室長の言葉 ・・・●
どうしても好きになれない。なんだかいやだなーて思う人がいたら試してください。胸に手を当て○○さんだーい好きと叫ぶのです。なぜだか、愛おしくて涙が出そうになるのです。








2008年7月7日月曜日

カッ カッ カッ


 来年の新商品、気がつけばスタートしてからもう四ヶ月。
いったい私は何していたんだろう、早くカッ カッ カッと進めなくては。
そんな、大丈夫ですよ。ぷるんと頑張れますよ。

なになに・・何語

今日は出来あがったサンプルを確認しながら皆で検討会。

デザイナーのMさんは伝えます。
「衿のラインもう少し、こう、かキーんとしたいんですけど」
「こんな感じでどうですか?」 とパタンナーのSさん。
「そうそう、そんな風にぷるんと・・・」

「頑張ってカッ カッ カッと進めましょ。」 
パターンのチェックから縫製のチェックまで頼れる存在のKさんは、指をならして話します。
「そんなー大丈夫ですよ。もう一度サンプルで確認しましょ。」 は、
いつも冷静なパターンナーの、Yさんでした。

蛇語を話すデザイナー、蛇語を理解するパターンナー。
ムッムッ、ひょっとして君たちは「??・・・・・」
蛇語を理解できない室長は、「マグル」


妥協を許さない積み重ねの毎日。
一日、一週間があっという間に過ぎて行くのです。

蛇語の飛び交う企画室は、カタログ撮影は秋だというのに日増しに殺気だってくるのです。

今年こそは、ポッター(ハリー・ポッター)の魔法が欲しい室長でした。


●・・・ 今月の室長の言葉 ・・・●
どうしても好きになれない。なんだかいやだなーて思う人がいたら試してください。胸に手を当て○○さんだーい好きと叫ぶのです。すると、今まで見えなかった所が見えてくるから不思議です。