夏がくると思い出します。
中学の家庭科に浴衣を縫う授業がありました。
その年、母は入院中で私は父にゆかたの生地をたのみました。
縁側から「ほーら」と父の声、その声に振り向いた私に太陽の光をいっぱいあびた
ひまわりの花が飛び込んできました。
黄色の花びらが白地をバックに笑っています。
緑色の葉っぱが優しい風を送っています。
私は一瞬思いました。
「えっこれ、本当にお父さんがえらんだの。」
野菜を作り写真や水彩画に熱中する父は86歳、少し耳が遠くなってきました。
父の買って来てくれたゆかたの生地はところどころ薄汚れながら、不慣れた
手つきで縫われていきました。
最後にお尻の部分に当て布をつけて出来上がった浴衣は、その年
夏の夜の晴れ着になりました。
着物の生地って不思議です。
はさみで切っても、捨てるところがありません。
少し残った生地は、四角に縫って紐を通して巾着袋になりました。
染めなおしたり、仕立てかえたり、着物は何度もよみがえるのです。
そして、貧しさから逃げ出したかった私は、黙々と働いていた両親から豊かな心を
学んでいる事を知らなかったのです。
●・・・ 今月の室長の言葉 ・・・●
腰に手を当て背筋を伸ばし頭を首の上にまっすぐ置いてみました。そしてお尻に力を入れました。なんだか、口元がきゅっと引き締まってみえました。
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