2010年3月29日月曜日

福州4


 中国では、糸のロットが140本です。

えっ、140本、百四十、
そんな報告聞いていないよ
前回は、1本でも買えたのに、

えっ、送ったはずのパターンが見つからない

探して、探して、
確かに送ったよね。
いや、持ち込んだはず。

訪中二回目のライン長からの報告です。

「すみません、やらなければいけない事がいっぱいで、管理が出来ていませんでした。」

総経理からのメールです。

「大丈夫、大丈夫、問題はおきてもいいのです。おきて当たり前なのです。
でも、問題は、次に何をするか、どう動いていくのかが問題なのです。」

「問題の引き出しをいっぱい作ってください。
たくさんの引き出しはきっと、福州一のモデル工場にしてくれるはず。」


さあ、今日はそんな福州から帰国した三人の報告会

三人は、どんな問題を抱えて帰ってくれるのでしょう

今からわくわくするのです。


2010年3月23日火曜日

貴方


 刻んだ歴史の中でいつも、リミットが伝えてきたこと

それは働く女性の方たちの笑顔への応援歌でした。

言葉は最小限に、その思いは感性に訴えてきたつもりでした。

「買ってください、売ってください」

その言葉は決して使いません。
使いたくありませんでした。

それは言わなくても、語らなくても写真が、キャッチが商品が語ってくれると
思っていました。

だから、機能よりも素材よりも、
仕事服だからとなおざりにしない
押し付けで着させられる服よりも着たいと思ってきていただける
見た目の優しさ、デザインを一番に伝えたいと思いました

でも、それは豊かな時代が生んだ産物だったのでしょうか。

厳しい時代、心だけでは訴える力が弱くなったのでしょうか。


いいえ、そうではないのです。

もっと深くもっと強く笑顔を追いかけたその時に、

見えてきたのは「貴方」です。

真に「貴方のために創りました」といえるのは

培った歴史の上に、なお若い力が積み上げたその心が、本物だからだと改めて思うのです。





2010年3月15日月曜日

福州3


 一人ひとりの能力を確認するために、基本の縫い方を練習してもらいました。
二枚の生地を重ねて縫うのも、丸い円を描いて縫うのも、高度なテクニックを要求される丸い生地に平らな生地を縫い付けるのも、とても上手です。

リミットの商品は、身頃に袖をつけたり、後ろ身と前身をあわすのに特殊ミシンを使います。

特殊ミシンは、断ち目にロックをかけながら同時に縫い合わせてくれる特殊なミシンです。

特に袖付けは、腕の丸みを出すために袖は大きくカーブを描きます。
身頃の形状と、袖の形状は違った形をしているのです。

カーブは触っただけで伸びようとします。
直線は、逆に縮もう縮もうとするのです。

上下に重ねた生地、上になる生地と、下になる生地を持つ手は違った動きが必要です
経験の無い人には難しい技術です。
 
いざ、ラインを組んでの人選は、工場の責任者の二人と意見が合いません。

二人が推薦する女性は、とても優しい手つきでどこでも丁寧に上手に縫えました。
でも、特殊ミシンの経験はなさそうです。

人選の理由は、入社試験で造ってもらったワンピースがとてもきれいに縫えていた事、
しかも袖付けがきれいに縫えていたからと言うのです。

こんなに綺麗に縫えています、と見せてくれたワンピース
肝心の特殊ミシンが使ってありません。

声を失ってしまった日本から一緒に行った縫製指導のライン長と私、

同じものを見ても、感じる視点が違っているのです。


2010年3月8日月曜日

福州2


 出迎えたのはお正月気分がぬけきらない数発の花火とイナズマ達
前が見えないほどの横殴りの雨
昼間は晴れていたという報告になんだか不安がひろがります。

お天気がよければ半袖で十分な気候のはずなのに
あくる朝も雨

広い工場の中、窓は全開
半袖を予想しての身支度は寒さで震えそうです。

よくよく見ると石の床は土ぼこりがたまっています
新しく設置したCADの上にもうっすら土ぼこり

「汚れた工場では品質のよいものは出来ません」

一番にしたのは広い工場の床磨き
水で洗ったモップは水が滴り落ちています。

一回ではだめ、もう一回
床を手でこすって、手の先を見てもらいます。

笑顔で指を立てて「もう一回」と答えてくれるジェスチャーに
工場の中は少しづつ活気付いていきました。

毎朝床磨き、仕事が終わったら掃除とミシンの手入れ

それは、ただ製品を汚さないためだけではないのです。
心も一緒に磨くのですよ

そんな言葉の通訳は無い、福州の工場のスタートです。

2010年3月1日月曜日

発想


30年前
雪の後のぬかるんだ泥道を5時間かけてたどり着いたのは
神々が集まる山ぶかい出雲の地

リミットがはじめて造る工場は大豆のにおいが焼きついた
醤油工場の建物を改造して造られていました。

それまで自転車の鉄を握っていた手を
やわらかい布におきかえての工場の創業者。

初めてミシンを扱う人たちにズボンの縫い方を指導します。
一番難しい男性のズボンの後ろについてるピスポケットは
細いループが上下に形よく並ばなくてはいけません。

満足がいかないまま後ろ髪を惹かれる思いで、帰途に着きました。

驚いたのはその一週間後、
二枚に分離されていたはずの生地は、同じ大きさの一枚に集約されていました。
ピスの幅に合わせて二本、平行に縫うはずだった縫い線は
一枚の生地の真ん中に長方形に縫われています。

社長のコメントは

「結果この形になればいいんだろ」

確かに見た目は同じでした。

それからしばらくして売り出された自動で縫えるように開発されたピス縫いミシンは
まさにこの発想だったのです。

曲げることも容易ではなかった鉄、曲げることはかんたんにできてしまう布
簡単にできないから、発想を変えて考えてみる。

さあ、明日から福州の縫製指導が始まります。

私も、曲がらない鉄を曲げて帰りたいと思うのです。